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痛みは金属音のようだ、頭の最奥から響いてくる音を持たない金属音のようだ。冷たくて無機質で鋭くて容赦が無い。肺を満たし血に溶けて脳までのぼってきた煙草の毒の正体を僕は見た気がしていた。頭の中で、耳の一番近くで、うるさく骨を震わすそれはきっと、いつか僕の頭を突き破って生れてくる毒蛾の幼虫が頭がい骨を食む音に他ならないのだろう。そうか、僕は間もなく死ぬのだ。この身体を虫に食われつくして死ぬのだ。神が助けてくれないことなどとうに分かっていた。悪魔に好かれてしまった僕は不幸だ。誰も知り得ぬ激痛を身体の内に秘める僕は不幸だ。哀れだ。愛されるべき精神を餌とされるその様が不憫だ。ほら君も、金属音の聞こえない君も、僕をただ蔑んだ瞳で射る。僕を蝕むのが煙草の煙ではなくブランデーの一滴だって?ああ、そうだよ、君は一生知らなくてよいのだ。
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 ぱらぱら本をめくる音だけが無機質に繰り返されていた。2人とも息を殺すようにしてただ隣同士に座っているだけだった。片方は微動だにせずどこか上の空でぼうっとしているだけだったしもう片方も本を手にしてはいるが明らかに文章を全て読み終える前にページをめくり続けていた。時計の針は静かに動く。けして心地よい空気ではないのに不思議とおかしな焦燥も生まれなかった。「聞かないの?」ぼうっとしていた方がふと沈黙を破って問うた。「聞いたら答える?」ページをめくる手を止めもう片方がそう聞く。「さあ…」と自嘲気味に笑って曖昧に答えたその人は放り出していた右足をきゅっと抱える。「狡いね」本をめくっていた方はそう呆れたふうな色の瞳をして息を吐く。喉の奥で笑いながら足を抱えた方は半分以上ページが進んだ本を相手の手から取り上げて自分でぱらぱらとめくった。「そんなこと言わないでよ。知ってたでしょ」
 「苦しいの?」
 本を取り上げられた方が床に目を落として聞いた。ぱらぱらページをめくる音が途絶える。ぱたんとそれを閉じ、ひとつ大きく息が吐かれた。
 「…さあ」
 閉じられてしまった本をその手に返されてその人は一言、狡いよと呟いた。





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ケータイがよぼよぼでケータイからついったに呟くことが困難を極めているためPCからついったを使っているんだけどPCからならブログ使うのと大して労力変わんないんじゃね、と思ってブログにプチ里帰り中(?)
新しいケータイにしたらまた、ついった手軽!最高!君しか見えない!とかって感じでついったに引きこもるフラグでしかありませんね


 キイ、と適当な場所で車が止まった。
 「ここからは一人で行けよ。バスがあるから」
 運転席に座った彼が前方に見えるバス停を顎でしゃくってみせたのに助手席の彼女は少し躊躇するような表情を見せた後無言で頷いた。しゅるりとシートベルトを外し、車を降りてトランクを開けに後方へ回る。ずいぶんと暖かな空気が、雪国育ちでつい厚着をしてきた彼女を包み、彼女は上着のジッパーを下げて手で首元を扇いだ。年が変わってから一番の暖かさだった。
 トランクに積んだ荷はそれほど多くないが最後に残ったキャリーケースが難物で、引きずりおろすようにしてやっと彼女がトランクから出すと、待ちくたびれたのか運転席にいたはずの彼が車に寄りかかって立っている。彼女はまた無言でその顔を一瞥し、キャリーケースをそのままにして残りの荷物をかき集めた。彼も黙ってそれを見ている。キャリーケース以外の荷物を全て肩にかけるやら手に持つやらした彼女は歩道の上へのぼり、一度荷物をおろして彼と向かい合った。
 「バスは何時に来るの?」
 「知らないよ。時刻表を見ればわかるだろ」
 「調べてないのね」
 「なんで俺が調べなきゃいけないんだ?」
 「兄さんがバスで行けって言ったんじゃない。バスの時刻まで知ってるのかと思った」
 「そんなわけない」
 「私は兄さんが空港まで送ってくれるんだと思ってたのに」
 ひどいわ。
 妹がそう言うと、兄は一瞬だけフッと笑った。そこに込められたものが温もりなのか冷たさなのかさえ分からないほど微かな表情を捉えたかそうでないか、彼女はじっと何かを探すように切れ長の兄の目を見つめた。「ねえ」
 「なんだよ」
 「みっつ聞いてもいい?」
 「どうぞ」
 「兄さんは本当に帰らないつもり?」
 「当然だろ」
 「ずっとここで暮らすの?」
 「ああ」
 「それは」
 言いかけて彼女は息を吸った。ちらりと天を見上げ、一度ふうと吐いて、また吸い直す。「それは、私が嫌いだからなのよね?」
 「そうだよ」
 射るような視線を逸らさずに言った兄をしばらく無言のまま見詰め、妹はまた息を静かに吐いて、さっきおろした上着のジッパーを一番上まで上げた。足元に置いた荷物を拾い、キャリーケースを歩道の上へ引っ張り上げようと手を伸ばすと、それを兄が遮って、片手でひょいと歩道の上の彼女の足元へ置く。そして腕時計を見た。
 「バス」
 「ん?」
 「乗り遅れるぞ。早く行けよ」
 「バスの時間、知らないんでしょう?」
 「俺はもう行くから」
 妹に答えずに踵を返し車へ乗り込もうとするその背を彼女は呼び止めた。「兄さん」
 呼ばれ立ち止まり振りかえった兄に彼女は少しゆがんだ顔で言う。
 「私も兄さんのこと、嫌いよ」
 初めて何か言いたげな瞳の色になった彼は、言葉を飲み込むように俯いて、「知ってたさ」と独り言のように呟いた。乾いた温い風が吹いていた。


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 (その嘘を見抜いてはいけないと分かっているつもりであった。いったいどれだけ前から覚悟していたことだろう。思い出せない記憶の奥は乾いた風の匂いがする。それが嫌いだった。きっとそんな匂いのする中で僕は心を決めたのだと思う。せめて風に揺れる葉が残っていればよかったのにその決心は木枯らしにもびくともしない裸の大木のようだった。僕はなんてひどい人間なんだろう。なんてひどい兄なんだろう。何も知らない彼女は春の日差しをまるでベールのように纏って泣きそうな顔をする。その震えた声音で囁かれるであろう言葉に僕はただああそうだねと頷いてやらねばならない。彼女は僕を憎むだろうか?蔑むだろうか?どうかそうであってほしい。おまえも、きっと、乾いた風の匂いが嫌いなんだろう?)

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 (彼がどんな顔をするのか大体想像がついていた。何を言っても私に向ける表情は同じだ。その切れ長の目で、冷たく私を見るのでしょう?そしてくだらないと笑うのだ。いつからそうだったか思い出せない。思い出せない記憶の奥は乾いた風の匂いがする。それが愛しかった。ずっとそんな匂いのなかにいたかった。でもそれが嫌だから彼は遠ざかってしまったのだと思う。私の気持ちは兄さんを苦しめるものなのだ。苦しめると分かっているのに断ち切れない私はなんてひどい妹なんだろう。ああ今私はきっと泣きそうな顔をしている。それが汚らわしくて仕方ないのでしょう?だから最後に吐き捨てるようにして私の嘘をくだらないと笑ってね。そうしたら私のことを憎んだり蔑んだりして疲れてしまうこともないでしょう?どうかそうであってほしい。あなたは、きっと、乾いた風の匂いが嫌いなんだろうから。)

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唐突に兄妹もえに目覚めたもので…



チョコレートみたいなわたしとコーヒーみたいなあなた



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いっしょにたべなきゃおいしくないの



時計の針がひとつ動く。もうすぐ彼がやってくる。白い城に一人ぼっちな私のことを憐れんで甘いホットココアを持ってくる。孤独には慣れてしまったから平気なのと今日こそ彼に言わねばならない。だから早く会いたいと思う自分は狡い。いっそ息を止めてしまおうかしら。眠ることも本を読むことも積み木を積むことも窓の外を眺めることも全部、ぜんぶ試してしまった。今まではそれで綺麗に治ったのに。時計の針がまたひとつ動いた。ああ、ああ、しあわせなのは、つらい。



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幸せなのが辛いというのは贅沢かもしれませんね。


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