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 曇天のなかに星が光るかと見えた。よく目を凝らせば蛍であった。高い梢にとまって死んだように動かない。私は首筋に団扇を振った。同時に蛍はふらりと飛んだ。庭の池までゆくのだろうと思った。私はふと思い立って草履をはき、文の名前を呼んでから池を見に行った。思った通り、小さな池を縁取る石のうえで星が息を殺している。もう一歩近づくとまたふらりと飛び立ち今度は池のほとりの柿の木にとまった。それは恥じらう少女のようだと思った。しばらくそこに立ち止まりおかしな緊張をもって沈黙していると、文がぱたぱたと後ろから駆けてきた。「どうなすったんですか?」私が声をひそめて「ほら」と柿の木にとまる星を指すと、文は同じようにひそめた声で感嘆し、ほほ笑んだ。「まあ、蛍だなんて。迷い込んできたのかしら」
 夕食の支度をしていたらしい文は、額にうっすらと汗を光らせ、ほんのり頬を上気させていた。嫁いできたばかりで一人で家事をするのはまだ慣れないらしかった。そもそも子供のころから何かと不器用な娘である。三姉妹の末っ子であることも手伝って花嫁修業もろくにできず、今は一日分の家事をその日のうちに全て終えるので精いっぱいなようだった。それでも料理だけは好きで、毎日笑うのも忘れて家事に没頭しているなかで夕飯の支度をする時だけは幸福そうなので、私もついつい仕事を早く切り上げてその顔を見に帰ってくるほどだった(文には「まだ夕飯ができていない」と謝らせることになるのだが)。少し痩せた顔で笑う文はまだ少女のようだった。
 「はかないものだわ。すぐに死んでしまうんですもの」ふと眼を細めて呟いた文に胸を衝かれて私は瞬いた。文は私を見上げてかすかに笑った。「そうでしょう?蛍は」
 「ああ、…そうだね」私は答えた。「朝には死んでいるかもしれない」
 文は何も言わずに眼を細めたままじっと柿の木の梢にとまる蛍を見つめていた。黒々とした木の葉の上で輝く光はなにかの瞳のようにも見えた。池にはぽつんとその光がガラス玉のごとく映り、ぬるい風にふらふらと揺れた。私は急に衝動に駆られ、素早く柿の木に近づくと、梢の蛍を捕まえようとした。文が「あっ」と声をあげた。私の手の中におさまるかと見えた蛍は、指の間をすりぬけて、ふらふらと飛び立って、ついに塀の向こうに消えてしまった。文がその後ろ姿を見送って言った。「ああ、いってしまったわ」
 「捕まえて近くで見てやろうと思って」
 「なにも捕まえなくたって、じゅうぶん近くにいましたよ」
 「なにか似ている気がしたんだよ」
 「まあ、何に?」
 「きみに」
 私がばつの悪そうに言うと、文はきょとんとして、からからと笑いだした。その声は祭りに向かう娘たちの下駄の音のように小気味よく夜の闇に響いた。ひとしきり笑った後、文は笑ったことをごめんなさいと謝って、私にほほ笑んだ。「入りましょう。夕飯ができたところでしたの」 そう言って文が促すように体をかえして歩きだすので、私もそれに続いてもといた縁側に戻った。文が草履を脱ぎ、揃え、蚊をはらって台所へ向かうのを見送って、私は再び縁側に腰を下ろす。「蛍が戻ってこないかな」そう呟くと、台所から文が顔を出して言った。「あら、そんなに蛍がお好きだったのね」蛍が好きだというその言葉に言いようのない違和感を覚えながらそれでもほかの言葉が見つけられずに私は少々無愛想に頷いた。「そうだよ」
 文は、今度はただ穏やかにほほ笑んだ。「戻ってきたら教えてくださいませね。もう捕まえたりしては嫌ですよ」


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思いついた書き出しからどんどん繋げて書いているので、あとから設定とかが固まってきて、そいでもってその設定がこんな短文じゃ表現しきれない複雑さをもってるから、結局こんな有様になるのです。夏と蛍は最強コンボのひとつですね。
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膝まで届く薄紫色のカーディガンを羽織り手首をその袖に埋めている苗子は、何か心地の悪いところがあるらしく、しきりに目をきょろきょろとさせてはカーディガンの襟もとを正すので、どうしたのだと痺れを切らして問うてみれば、丈の長いカーディガンで寸胴に見えやしないか不安なのだと言う。あまりにその薄紫が苗子の白肌に似合っていたので脱がすのが惜しく、私はあっけらかんと寸胴も愛らしいじゃないかと言うと、苗子はそんなわけありません、と口をとがらせたが、しばらくその薄紫に目を落とし、そっと私を見てほんとう?と尋ねた




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(ああ、藤の花のようだ)


寝付けないときに考えたのかケータイの中に残っていたデータ。


ねえと呼んだ。名前を知らない。きみは振り向く。呼ぶなと苛立つ。裸の指先。半透明の冬。氷柱のしずく。一人分の足跡。からだが凍る音を聞いた。きみが泣いているというのに。





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髪を切ったんです。
びっくりされました。



甘い缶コーヒーの匂いで世界は満たされる。揺れるバスのくらい光をあかるくさせる。運ばれて行くのはかなしい私だ。冷たい窓ガラスに吐息が露となって夜の街を濁らせた。軽い箱はあなたの指が支配する。かちこちと電波にのせることばを選ぶ。不器用なダウンジャケットが濁った暗闇に座っている。小首をかしげる癖を教える。それは冬の亡霊だ。私だけの幻だった。
「今日、疲れたでしょ」
「うん」
「へいき?」
「へいきじゃない」
「ほんと?」
「うそ、へいき」
「なんだよ」
消えそうなあなたが困った顔をするのが楽しくて私は笑った。窓ガラスに映った私の顔をなぞると震える露がつうと流れた。するとあなたも手元の玩具に向けて柔らかく笑ってバスは停止する。聞いたことのある町の名前は幻をきらめかせてあかるい光は影に遮られた。現実は長い足で、明るい声音で、世界を出ていくのだ。
「おれここで降りる、じゃあね」
「うん」
「気ぃつけて」
「うん」
私のことばを耳だけで聞いてその人は行ってしまう。バスは身震いとともに走り出す。ダウンジャケットは足早にネオンの中に消えていく。運ばれて行くのはかなしい私だ。世界は彼女が支配する。苦い缶コーヒーの匂いに満たされる。私はくらい光の中でいつもと違う町で降りたその人に手を振った。その人は振り返らない。小首を傾げてみると窓ガラスの露がこぼれた。その人は振り返らない、ふと恋しくなった人がいるから。



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さむくなってきましたね。



05.学ぶ

チョークが黒板を滑る。さらさら、かっ。と、英字の羅列。さらさら、かっ。さらさら、かっ。ああきっと、ピリオドの音はあなたの癖ね





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