痛みは金属音のようだ、頭の最奥から響いてくる音を持たない金属音のようだ。冷たくて無機質で鋭くて容赦が無い。肺を満たし血に溶けて脳までのぼってきた煙草の毒の正体を僕は見た気がしていた。頭の中で、耳の一番近くで、うるさく骨を震わすそれはきっと、いつか僕の頭を突き破って生れてくる毒蛾の幼虫が頭がい骨を食む音に他ならないのだろう。そうか、僕は間もなく死ぬのだ。この身体を虫に食われつくして死ぬのだ。神が助けてくれないことなどとうに分かっていた。悪魔に好かれてしまった僕は不幸だ。誰も知り得ぬ激痛を身体の内に秘める僕は不幸だ。哀れだ。愛されるべき精神を餌とされるその様が不憫だ。ほら君も、金属音の聞こえない君も、僕をただ蔑んだ瞳で射る。僕を蝕むのが煙草の煙ではなくブランデーの一滴だって?ああ、そうだよ、君は一生知らなくてよいのだ。
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