忍者ブログ
屋根裏ログ
「 ほんとう  (落乱・現パロ高校生きりトモ←能勢) 」
フリーエリア
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
アクセス解析
OTHERS
Powered by 忍者ブログ
Templated by TABLE ENOCH


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 きんと透き通るような冷たさの巣食う生徒玄関をぬけて朝の図書室へと来てみればその入口の前でうろうろとしている見知った姿に目を留めて声をかけた。黒くて長い髪をしたまんまるい瞳の少女である。驚いて振り返った彼女の腕には小説と思しきものが2冊ほど抱きしめられていた。先々週雑誌の紹介で見たと言って借りていったものだろう。返却期限が来たので返しにやってきたのだ、こんな朝早くから。ではなぜ肝心の図書室に入らないのだ、と問うと彼女は眼をキョロキョロさせ、しまいにはかぁっと耳を紅くして、唐突に持っていた本を押し付けてきた。
 「能勢くん、返しといて、それ」
 「え?は?」
 「お願い!たのんだ!ごめん!」
 口を挟む余地を与えずに一気にそう言い一度も目を合わせないまま走り去る彼女の背をポカンと見送る。学ランの下にセーターを着込んだせいでやけにもこもことしている腕に二冊本を抱え、そのまま少女が階段を駆け上がる音まで聞きとどけ、何が何やらと首を傾げながら仕方なく図書室の扉を静かに開けると別の顔が視界に飛び込んできた。そこで早くも合点がいく。
 「はよっス」
 「おお」
 貸出カウンターの中でのんびりと古い漫画を読んでいたのは後輩のきり丸だった。人が少ないのと教員がいないのをいいことに、長い脚の先を行儀悪くカウンターの淵にひっかけ、椅子の背もたれをキイキイいわせながら、能天気なまでに笑って挨拶してきたので、その目の前に件の小説をドンと置いてやる。繊細な印象のフォントがお菓子のパッケージのような表紙に並ぶそれを見て彼はきょとんとし、「久作先輩、恋愛モノなんて借りてたんスか?」。
 「喧嘩しただろ?」
 「え」
 単刀直入に聞くと思いのほか素直に素っ頓狂な声をあげた。当たりらしい。
 「いま図書室のまえウロウロしてて、俺にこれ押し付けて逃げてったぞ」
 肩からかけた鞄をおろし、マフラーを首から外した指で恋愛小説の表紙をトントンと突くと、何を言われているかだいたい察したらしい長身の後輩は、脚をカウンターの淵からどけ決まりの悪そうな顔をして無言の肯定を告げてきた。バーコードリーダーを持ち恋愛小説の返却手続きをする間、小さくため息をついているきり丸に痴話喧嘩の理由を問うと、自棄気味にもう忘れてしまったと言う。
 「じゃあ早く仲直りしろよ。めんどくさいから」
 「いや俺だってそう思ってるんですよ?でもタイミングっていうか」
 なんていうか、その、いろいろあるじゃないスか、いろいろ。奥歯に物が挟まったようなもどかしい物言いに苛々して、残りを聞かずに本棚の最上段に置かれていたらしいその二冊を背伸びして戻し、さっさとカウンターの中で数学のノートを開く。漫画を読むのをやめて頬杖をつくきり丸とそれ以上の会話をなさないまま宿題の残りに没頭していたら、ちょうど最後の問題の答えを出したところで始業5分前のベルが鳴った。

 
 終業のベルを聞いたのはそんな朝の出来事など半分ほど忘れかけていたころで、正直なところ思いだしたいことでもなくそのまま忘れてしまいたかったが、そんな気持ちを尻目に放課後の職員室前で鮮烈に記憶を蘇らせることになったのは、朝とは逆に黒髪少女に声をかけられたからだった。寒い廊下、手に一冊のノートだけを持っているところを見ると、目的は同一だろうと思われた。数学の課題の提出だ。教員が他の生徒と面談中なので待っていたほうがいいと告げると、少女は若干残念そうにして隣に並び、しばらくしてから突然謝ってきた。
 「能勢くん、ごめんね」
 理由は十中八九見当がついた。「朝のことならいーよ別に。本、返しといた」
 「ありがと」
 「喧嘩したんだって?」
 「げ」
 彼女が顔をしかめて「あいつ喋ったのね」と言った。二人のことを知っている人間なら誰でも想像つくだろう、と正直なところを述べると今度は恥ずかしそうに俯くので、やはりお互いに怒りはきれいさっぱり無くなっている状態なのだろう。それならばと、きり丸にも言ったように「早く仲直りしろ」と関係修復を促せば、「そう思ってるの、思ってるんだけど、タイミングっていうか、ねえ」とこれまた彼にそっくりな調子でもごもごと言葉を濁した。朝の苛々とした気持ちにちくりとしたものが混じってじんわりと身体に広がっていくのを感じる。悶々とする黒髪少女の伏し目がちの睫毛はとても長かった。
 「いい加減許してやれば?」
 「うーん、許すとか許さないとか、そういうことじゃないのよね…」
 「そもそも何で喧嘩したの」
 「忘れちゃった、そんなこと」
 「あいつも同じこと言ってたけど」
 弾かれたように、俯いていた彼女がまるで花が咲くかのごとくぱっと顔をあげてこちらを見た。まんまるい瞳をまんまるくしてこちらを見た。胸を衝かれるとはこういうことかとそのとき初めて身を以て知ったと思うほどその無邪気にきらきらとした表情に気圧されて、苛々としたものを忘れる。彼女は「そ、そうなの?本当?」と尋ね、「本当」と言われ、抑えきれずに口元を緩めかけた。花開く寸前の蕾のような彼女の顔をそもそもその時初めて目にしていた。嬉しいのかと独り言に似せて聞くと頷いた。苛々した気持ちが吹き飛んだ代わりに、二人で立つ廊下の冷気が一気に肋骨の隙間から心臓にまで入ってきて血がどくんと大きく巡る。
 「……なんか、仲直りできる気がしてきた」
 「そう?」
 「うん、ちょっとは、素直になれる気が」
 「そっか。…」
 急に嬉しげになった彼女を見ていたいような見ていたくないような気持ちはそこで途切れた。ガラリと職員室の扉が開き、一人生徒が廊下へ出てきた。終了を待っていた面談相手の生徒であったのでそのことを少女に告げ、閉められてしまった扉を開けて彼女に先に入るよう促す。不意をつかれたらしい少女は一瞬ためらってから先に入り、ともに課題を教員に手渡して再び廊下に出たあと、まんまるい瞳を和ませて笑顔を浮かべた。見慣れた笑顔を浮かべた。
 「能勢くんて、やさしいね」
 どうして優しいのか知りたい?と聞いてみたい破壊衝動に似たものをいつもの通り呑み込んで「当然だろ」とおどけて返せば黒髪少女もいつもの通り笑う。そして仲直りしたら報告すると言う彼女に必要ない、言われなくても分かるから、と拒むと今度は彼女の頬が膨れて、またゆるんだ。そんな他愛もないやり取りを残して軽い足取りで去っていく彼女の背をぼうっと見送り、彼女が階段を下りていく音まで聞き届けて、ため息をつく。
 (たえるって、きついな、思ったより、ずっと)
 思いだされるのは何故か、先々週あの恋愛小説をカウンターまで持ってきた少女の姿だった。





-------------------------------------------------
現パロ高校生きり×トモ(←)能勢。
現パロ考えた時に、くノたまの子らって乱太郎たちより1コ上だから、能勢とか川西とかと同級生?もしかしてクラスメイト?「能勢くん」とかって呼んじゃうの?なにそれ可愛い!というところから発生したもの。
最初はきりトモの痴話喧嘩に、きりちゃんの図書委員仲間として能勢がちょっと首を突っ込む程度のものだったんだけど、能勢がトモミちゃんにほんのり惚れてたら美味しいかも…と思って可哀想な役にしてしまった。ごめん久作。
卒業生の豆腐が学校に遊びに来て池田に豆乳プレゼントして帰って「なんなんだあの人」って池田が思ってるところにミーハーなユキちゃんが「久々知先輩あそびに来たの!?なんで教えてくれないのよー!」って文句言いに来る っていうのも考えてたけどオチないし豆腐謎だしやめました
PR
COMMENTS
TITLE

NAME

MAIL

HOME

PASS
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
TRACKBACKS
[PR]