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勢いだけで書きました。童話っぽいの目指したけどこんな童話あったらいやだね。




 いろんな色をあわせたらいつか見たこともないような白になって、お姫様はそれを紡いでドレスを作って結婚するの、すてきなすてきな王子様と。そんな幸せなお伽話を神様は世界中の女の子に授けてくださるものなのだと娘は信じて疑わなかった。お姫様になれなくたって、王子様がいなくたって、甘いクッキーが隠れているような小さな小さな木箱の中で夏の雲のような白を作れば、白いドレスを着られるのだと。そうすれば通りの向こうの鍛冶屋の倅が青い瞳を和ませて自分を迎えに来てくれるのだ。
 娘は木箱に赤と黄色を落とし、慣れない手つきで混ぜ始めた。初めてで勝手がわからずぼとぼとと零してしまった。手が汚れた。気にせず混ぜた。木箱の中は、橙色で、混ぜても混ぜても白にはならない。
 そこで娘は青を混ぜた。鍛冶屋の倅を思い出す。まっていてね、もうすぐこれが、とっても美しい白になるのよ。そうしたら私をきっと迎えに来てくれる。橙色の指で彼女はまた木箱の中の色を混ぜた。青が橙色のなかでとぐろをまく。やがて境界線もわからぬように、溶け合って溶け合っていく。白にはならない。
 娘は小首をかしげて今度は緑を混ぜる。白にはならない。紫を混ぜる。白にはならない。茶色を混ぜる。レモン色を混ぜる。水色を混ぜる。ピンク色を混ぜる。黄緑。黄土色。肌色。赤紫。朱色。
 いろんな色を混ぜていくたびに、娘は木箱の中が真っ黒くなっていくのに気付いた。娘の影が落ちているはずなのにそれすらも分からないほど木箱の中はどす黒い。悪魔の瞳のように、どす黒い。そこには娘の求める純白などどこにもなかった。ただただ汚らしい黒が底なし沼のように気味悪くせせら笑っているだけである。娘は気分が悪くなって木箱を置いてその場から逃げるように去った。逃げるだけ逃げて、ふと、鍛冶屋の倅に出くわした。
 どうしたのかと声をかけられ、娘は頬を上気させながら、ふと真っ黒い自分の手に気付き、それを背中にさっと隠した。なんでもないの、なんでもないのよ。鍛冶屋の倅はそれに頷いてふっと顔を和ませた。ねえ、ぼくさ、結婚するよ。
 娘は聞き返した。え?
 見たかい、花屋のあの子がさ、こんな細い花瓶で、いろんな色の光をあわせて、見たこともないような白を作って、それを紡いでドレスにしたんだよ。それはもう素晴らしく綺麗なんだ。お伽話みたいだろう?それを見てぼくはあの子をお嫁さんにしたいって、そう思ったんだよ。
 目眩がするのを娘は感じた。倒れそうだった。真っ黒い手を背中に隠すのをやめて、娘はとぼとぼと、うつろな目のまま、もときた道を歩いて行った。ぽとんとひとつ、真っ黒なものが入った木箱が落ちていた。
 娘はそこにしゃがみこんで木箱を拾い上げ、黒をすくいあげた。光?光を、あわせて?さっき倅はそう言った。花屋の娘は光の色をあわせて白を作ったって。…
 娘は光の色なんか混ぜてはいなかった。ずっと自分の大切にしてきた絵具の色を混ぜていた。光の色なんか、持っていなかった。これっぽっちも。
 娘はぽろんと涙をこぼした。気づいてしまったのだ。わたし、白をつくれない。ドレスを、着られない。
 誰とも恋なんて、できないんだわ。…
 ぽろんぽろんと娘の目から涙が雨粒のように零れ落ちた。しゃくりあげると息が苦しく、むせかえる。ぽたぽたと涙が散らばる。手から木箱が落ち、真っ黒いその色が、空間を食べるように広がっていく。その上に娘の止まらない涙が落ちていく。ひとつ。ふたつ。みっつ。
 真っ黒い絵具の上のその涙はみんな虹のような色を宿してきらりと光っていた。

 
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