もう一個、アルランのネタがあったんで出しておきます。こっちは短い。
ね、あれ見て、サンタクロース!
まだだれの踏み跡も無い雪道のようなコートを着た小さな娘がクリスマスキャンペーンのためサンタクロースの格好をしたスタッフを指さしてしきりに隣の青年に話しかけているのが聞こえた。遊園地の案内パンフレットを片手に何かを探しているらしい彼はそれどころではなく適当に相槌をうつだけなのだが、彼女はそれも気にせず(または気づいていないのか)雪だのライトアップだのジングルベルだのと興奮の面持ちで話しかけ続ける。そんな彼女はまるで蝶のようであった。黄や青や赤や緑の光の瞬きでひらひらと羽を動かす蝶であった。絶えることなく2人のそばを通り過ぎる人の姿のせいで娘は人の合間を縫うようにちらちらと舞うようにさえ思えた。人ごみの中その蝶が飛んで行ってしまわぬように背中をそっと捕まえていた青年はパンフレットからようやっと目を離し、白い娘をその口で呼ぶ。きょろきょろと目を顔ごと動かしていた娘ははたと止まって彼を見上げてはにかんだ。そして2人は歩き出し、遠くに美しく輝く大きなツリーのほうへ向かう。青年の腕にぴたりと寄り添った娘の裸の耳は春のような色をしていた。
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