もたもたしていたら日付変わってしまった^^^^お笑い草です
というわけでクリスマスもの、リボーンです。ツナ京が軸ですがヒバハル、山ビア、でランピンの絡みもあります。久々に書いたので微妙にキャラ忘れていますが…
無駄に長いかもしれません。
仕上げは真っ赤なミニトマトと決めていた。瑞々しいレタスの上に盛り付けたフライドチキンの周りにスイートコーンを振りかけたあとで、チキンを閉じ込めるようにしてミニトマトを丸く飾り付けると、ふいに後ろからハルが顔を出して感嘆の声を上げた。「かわいい!ツリーみたいな色合いです」京子は余ったミニトマトを持った手をそのままに、にこりと満足そうに笑った。
できあがったフライドチキンの大皿をハルと二人で運んで行くと、大部屋は既に綺麗に飾り付けがなされていた。入口のすぐそばに天井まで届くかと思われる大きなツリー、クリスマス用のカーテンとシャンデリア。点滅するカラフルなライトは部屋中に張り巡らされたという形容のほうが相応しいだろう。ずっとキッチンで作業をしていた京子は見違える部屋の有様にポカンとした。全てがキラキラと眩しく豪勢で違う世界に来てしまったかのようだ。それはハルも同じだったようで(彼女も京子といっしょにずっとキッチンにいたのでこの部屋を見るのは初めてだったのだ)、2人は互いに顔を見合わせた。
「すごいですー…!」
脚立にのぼって壁にライトをつけていた山本が振り返って大皿に載った大きなフライドチキンを見つけた。「おっ、肉!さんきゅー、うまそ」
「こっちこそありがとー」ピンクのテーブルクロスをかけた低く広いテーブルの上に大皿を載せながら京子がまだ呆気に取られながら言った。「すごいね、この飾り」すると外は雪が降っているというのにワイシャツ一枚で腕まくりをしている山本が少年のように笑う。
「だろ?探してみたら、出てきたからさ。俺らは去年のお前らみたいに自分で飾り作れるほど器用じゃねーし、そのまんま使ったんだ。なー獄寺」
「あー?あー」
隅に座っていた獄寺が壁に向かって適当な相槌をうつ。「獄寺さんなにしてるんですか?」とハルが問うと、獄寺はハルとは反対方向へ顔を向けた。「うっせ、ほっとけ!アホ!」
「あほとはなんですかー!?」
「アホはアホだろ!それ以外の意味ねーよ!」
「ビアンキ用のサングラスかけてんだよ」
山本が可笑しそうに獄寺を指しながら言うので、京子も口論を始めるハルと獄寺をよそに口元を隠して笑った。獄寺がビアンキと同じ空間に居続けるために使うサングラスは、本人にとってほとんど目隠しになってしまうらしく、かけている間はずっと明後日の方向に喋ったり歩いて行ったりすることが多いので観察対象としてはこの上もなく面白いのだ。今も獄寺がハルを軽く小突くつもりで壁を叩き痛がるので、ハルが大笑いした。
「そういやビアンキは?」
山本がビアンキの名を出すと、ハルと取っ組み合いを始めようかとしていた獄寺がピクリと反応する。
「キッチンにいるよ」
「今年はあいつ何作んの?ケーキはお前ら担当なんだろ?」
「今年のビアンキさんはピザを焼いてくれるんですよ!」
ハルがまるで自分のことのように誇らしげに言った。山本はまた悪戯っぽく笑った。
「そりゃー楽しみだなぁ」
「アホか!死ぬぞ!」心底信じられないといった表情で獄寺が山本を見上げて叫ぶ。「俺はピザだけは食わねーからな、ピザだけは!」
いっそ何も食べなくたっていいですよう、とハルが舌を出すのをまあまあと宥め、京子はキッチンに戻ろうと彼女を誘った。ケーキはとっくに焼きあがって冷蔵庫の中だが、今からは飲み物や食器類の準備をしなくてはならない。今日はボンゴレメンバーのみならず、ディーノやトマゾファミリーも招いているため、ぐずぐずしていては彼らが来てしまうだろう。京子は掛け時計の針が6時半をさしているのを見てふうと息をついた。
「京子」
大部屋をあとにしようとドアを開けたタイミングで、山本が声をかけた。
「なに?」
「ツナならちゃんと間に合うから、心配すんなよ」
うん、してないよ、と彼女は笑った。
「楽しいクリスマスパーティーになりそうですねぇ」
キッチンへ戻る途中でハルがほくほくした表情で言った。京子はそれに頷き、キッチンに入って、食器棚を確認し始める。白い皿を使うことは決めていたが、いったいどれをどう使うかまではプランを立てていなかった。奥ではピザが焼けるのを待っているビアンキが椅子に座って本を読んでいる。
「ランボくんたち、どこまで行ったんだっけ」
カチャカチャと音を立てながら皿を取り出しては大きさと数を確かめる。傍でフォークとスプーンを出しているハルは人数分だけそれらを取り出して洗い場へ持って行った。
「近くのデパートです。クラッカーとか色々お楽しみグッズ買いたいって」
「イーピンちゃんと二人でしょう?大丈夫かな、もう暗いのに」
「イーピンちゃんはしっかりしてるから大丈夫ですよ。ランボちゃんは年より大人に見えるし…」
ジャー、という水の音を伴いつつハルが答える。京子は中くらいの大きさの皿をそれぞれの取り皿にしようと決め、人数を頭の中で数えた。女の子は京子、ハル、ビアンキ、イーピンの4人、男の子は山本、獄寺、了平、雲雀、ランボ、フウ太、ツナの7人、そして客が5人の計16人だ。クロームたちは誘ったが断られ、シャマルには用事があると言われたのでこのメンバーなのだが、パーティー開始の7時まであと30分だというのに半分も集まっていない。了平には飲み物の買い出しを頼んであるほか、フウ太はディーノと一緒にいることが分かっているし、ツナは今年最後の簡単な仕事を片付けているだけなので心配はいらないのだが、やはり少し不安にもなる。
「みんな、ちゃんと時間どおりに集まるのかな」
ハルが目をぱちくりとさせて京子を見た。京子はその表情に、余計な不安感が滲み出てしまったかと後悔する。
「あ、や、そんなことないよね、ちゃんと来るよね」
京子はハルの隣へ運んできた8枚の皿を置き、もう7枚を取りに戻る。ハルは水を止めてタオルを取った。
「平気ですよ、きっと。雲雀さんはともかくとして、今いないのは時間守れる人ばっかりですから!」
元気づけようとするかのように力強くハルが言う。言われてみれば確かにそうだと京子は素直に頷いて、ハルと場所を交代し、皿を洗いはじめた。ジャーという音とともに冷たい水が流れ出す。その感触に、去年のクリスマスが思い出された。ハルが再び力強く声を上げる。
「大丈夫、去年みたいなことにはなりません!今年の夜はゼッタイお仕事入れないってツナさん言ったじゃないですか」
ぼんやりと、大部屋の広さにミスマッチな人数で過ごした去年のクリスマスを思い出す。去年はパーティーと言いつつパーティーには最後までならなかったのである。折り紙や画用紙を買ってきて、小学生の図画工作よろしく糊と鋏で作った紙の鎖や花などを飾り付けた部屋で、大きなホールケーキを5人だけで囲んでいた、何も食べずに。テーブルの上には11人分の皿とグラスと料理が用意されているのに、結局使われることはなかった。思い思いに座ったハルとイーピン、フウ太の不安そうな顔と、ビアンキの険しい表情。山本たちがやっと電話をかけてきたのは、既に日付が変わってからだった。京子たちの知らないところで、緊急の仕事が入ってしまったらしかった。
あのとき、電話をとってからの、体中から力が抜ける感覚を知らぬうちに体が思い出したのか、洗剤を皿につけて擦っていた手から皿が滑り落ちて、音をたててシンクの中に落ちた。京子は我に返り、慌てて皿を拾い上げる。割れてはいない。フォークとスプーンを部屋へ運ぼうとしていたハルがぎょっとして振り返った。「大丈夫ですか?」
「う、うん、平気」
ごめんね、と言ったところで、今度は本当に電話の着信音が鳴った。
「あっ?」
ハルが声を上げて身をよじり、両手がふさがっていることに気づいて再び京子の傍まで引き返し、持っていたものを置いてからポケットの携帯電話を取り出した。相手の名前をディスプレイで見て、若干眉をひそめるので、京子にはそこで相手が誰だかわかってしまう。「恭弥さん?」
ハルがこくりと頷き、電話を耳にあてて話し始めた。そういえば雲雀は今どこにいるのだろう。何か買うものを頼んだ覚えもないし、頼んでも承諾してくれるような人物ではないのだが―――しかしその疑問はハルの声を聞いているうちになんとなく解決した。
「もしもしハルです!雲雀さんいつまでお店まわって…えっ、あったんですかあのお酒!ほんとに?あ、アイスのほうは?…買ってきてくれるって言ったじゃないですか!?ハルは馬鹿じゃありません!ケーキあげませんからね!?…はい、…はい、じゃーもー早く帰ってきてください…え?何ですか?…それ迎えに来いってことですかっ!?バイクで行ったんじゃ………鬼…あああ分かりました行きます!何も言ってません!」
泣きそうに声を上げてハルが電話を切る。こちらをにこにことみている京子と目が合い、彼女は苦笑いを浮かべて、電話をポケットに戻した。京子はハルが何も言わないうちに言った。
「いいよ、こっちは平気だから」
「…ごめんなさい…」
「大変だね、ハルちゃんも」
「いっこうに慣れません」
じゃあこれ運んだら行ってきます、と言って、ハルはフォークとスプーンを再度手に持って今度こそと大部屋へ向かった。くすくすと笑っていた京子はそれに「いってらっしゃーい」と言いながら皿を洗うのを続行する。
「ちゃんと連れて帰ってきますから大丈夫ですよ」
キッチンを出るときにハルは思い出したように言い残して出て行った。京子は今度は苦笑した。さっきの山本といい、ハルといい…
自分はそんなに不安そうな顔をしているのだろうか?
「ビアンキさん、ピザどうですか?」
カチャカチャと皿を洗いつつ、本を読んでいるビアンキのほうに声をかけると、眼鏡をかけているビアンキがふと顔をあげてオーブンを顎でしゃくった。「もうちょっとで焼けるわよ」
「楽しみ」
ビアンキは何かを言いかけたが、やめた。
泡を水で洗い落とし、脇へ重ねていく。特大オーブンは真っ赤になってピザを焼いている。ジャーという水の音だけがキッチンに残る。京子が16枚目の皿を洗い終わったところでオーブンはピーと音を鳴らした。オーブンを開けて焼け具合を確かめるビアンキに、タオルで皿を拭きながら京子はまた尋ねた。「どうですか?焼けてる?」
「うん、上出来ね」
満足そうに頷いたビアンキに京子は笑った。「良かった」
「京子」
「はい?」
「ツナのやつ、帰ってこなかったら、私がぶっ飛ばしてやるから安心なさい」
京子は先刻のハルのように目をぱちくりとさせながらオーブンからピザを取り出すビアンキをしばらくじっと見つめた。見つめたあと、返事をするタイミングを失ってしまったことに気づいて、また皿を拭く作業を再開する。冷水で洗った皿は芯から冷たく、指先が痛かった。ツナは7時には戻るとはっきり言っていた。明日でもよい仕事だったが(内容までは京子には知らされていなかった)、今日のパーティーを楽しむために今日のうちに片付けると言って出て行った。約束を破るような性格ではないから、きっとちゃんと帰ってきてくれる、京子はそれを疑うつもりなど全くなかった。去年のことがあったせいか周りは自分に気を遣いすぎていると彼女は思う―――ツナたちの無事が分かった直後泣き出してなかなか落ち着かなかった自分が悪くもあるのだが。それに彼らは何かを勘違いしている、自分が不安になることがもしあるとするならそれは、クリスマスパーティーのことではなく。
皿をすべて拭き終わったところで、山本がキッチンへやってきた。ビアンキが敏感に反応して彼を睨む。
「アンタ、来ていいなんて言ってないわよ」
「つれねーなぁこのお嬢さんは。…ランボたちと一緒にディーノさんが来たぜ」
「ほんと?ありがと。今…あ、おかえり」
皿を持って大部屋へ行くからついでに挨拶しようと思い、そう言いかけたところで、山本の後ろからイーピンとフウ太がやってきた。2人ともマフラーとコートをつけたまま、赤い頬をして、少々興奮している。
「京子さん!クラッカーとお菓子買ってきました!あと、とんがり帽子とかサンタの衣装とか、面白そうだからってランボが買っちゃって…」
「ありがと、イーピンちゃん」
イーピンの持ってきた紙袋には、彼女の言うとおりのものがごちゃごちゃと入っていて、まるでサンタクロースの袋の中を覗いたようにカラフルでファンシーだった。ランボが買ったのだというサンタの衣装を試しに出してみると、どう見てもミニスカートのコスプレ衣装で、華奢な女の子しか着られないと思われた。どうやらランボはイーピンに着せることを前提として買ったらしいと京子にはピンときたが、イーピン自身は全く気付いていないらしく、「こんなの誰も着ないのに」と文句を言っている。
「京子姉、ディーノ兄も来たんだよ」
フウ太が言って、ディーノが持ってきたのだという高そうなワインを京子に差し出した。
「高そう…」
「そうなんだ、すっごい美味しいやつなんだって。ぎりぎりまで冷蔵庫で冷やしておいてほしいって」
「わかった、入れておくね。…偶然いっしょになったの?2人とも」ワインの瓶を冷蔵庫の中に慎重に入れつつ聞くと、イーピンが答えた。
「私とランボが、デパートの前のイルミネーションを見てたときに、ディーノさんの車に拾っていただいたんです」
「そうそう!あそこのイルミネーション、すっごい綺麗だったんだよ!ね、イーピン」
「はいっ」
イーピンとフウ太はそう言って二人でほほ笑みあった。2人が言っているのは毎年デパートのある大通りで、ライトで飾りつけられている並木のことだろう。期間が短いせいもあって京子はまだ見に行ったことがないが、老若男女問わず人気のイベントで、特に若い女性が多く見に来る。隣で聞いていた山本が面白そうに言った。
「確かに綺麗だよな、あれ」
「アンタはああいうロマンを解するセンス無いでしょう」
ピザを大皿に載せたビアンキが山本をにらみつつその隣に立った。フウ太がそのピザを見て一歩引き、聞こえないような小声で言った。「び、ビア姉、今年はピザなんだね…」
「んだよ、俺だって少しは分かるぜ、ロマン」
「嘘ね。アンタみたいなガサツな男には一生かかっても無理だわ」
「じゃあ、あとで一緒に見に行く?イルミネーション」
ビアンキがピクリと眉を動かした。「なんでそういうことになるわけ?」
「俺にロマンてものを教えてくれるんだろ?」
な?と言う山本の眼は心底楽しそうだ。ビアンキはポンポンと頭を彼に撫でられ、怒りに燃えた瞳を見せたが、ピザで手が塞がっていてどうすることもできず、犬のようにぶるぶると頭を振って手を振り払うと、突き飛ばすようにして山本の脇をすり抜けた。
「一生かかっても無理って言ったでしょ!」
そのまま大部屋のほうへ消えてしまうので、山本は残念そうに口笛をヒュウと吹き、それを追った。一部始終を観察していたイーピンが、京子から返してもらった紙袋を持ったまま、神妙な面持ちで京子に向き直る。
「あの二人、どうなってるんですか?」
さあ、と京子は肩をすくめて見せる。
時計は6時45分をさしていた。
それから続々とパーティー参加者が到着した。まず了平が飲み物を両手いっぱいに抱えて戻ってきた。京子は、兄に酒だけを頼んでいたのだが、彼はちゃんとランボやイーピン、フウ太のことを考えて、ソフトドリンクも買ってきてくれていた。次にトマゾファミリーの4人が到着し(ロンシャンは何故か漬物を大量に持参した)、遅れてハルと雲雀も帰ってきた。どうやら雲雀は日本酒が飲みたかったらしく、一升瓶を持ってきた。普段はコーヒー、紅茶、ケーキ、クッキーと洋食も好むが、何かイベントがある際は必ずと言っていいほど和風のものを取り入れたがるのが彼である。京子はイーピンとハルに手伝ってもらって、ケーキと他の料理も大部屋へ運び、全員にグラスを配り、あとは乾杯するだけのところまで準備した。年末の仕事でいろいろと忙しかった面々は、既に世間話に花を咲かせつつあり、今にもビールの缶を開けそうだ。時計を見るとあと数分で7時になる。京子は、掛け時計を見たあとなのにもう一度自分の腕時計を見て、何をしているのだろうと自分がおかしくなった。
「ツナさん、電話してみましょうか」
ハルが心配そうな面持ちで言った。京子は首を振る。「お仕事中だったらいけないから、いいよ。7時過ぎたら先に乾杯やろう」
でも、と言いかけるハルを遮るようにして京子は笑った。「いいの、そんなに拘ってないから」
そうだ、別に、一緒にクリスマスパーティーを楽しむことが至上の喜びであるわけでもなんでもない。そこが重要なわけではない。無事に帰ってきてくれさえすればそれでいいのだ。京子は空のグラスを手にとって、中身が入っていないにもかかわらずゆらゆらと揺らした。壁にこれでもかと張り巡らされたライトがちかちかと点滅するのが見て取れた。それを2、3回繰り返すと、ついにポーンとひとつ、掛け時計が鳴って、7時を知らせた。
なんとなく場がシーンとなる。京子は皆が自分の顔色をうかがっているような気がした。大丈夫。私は平気。帰ってくると言ったんだから。自分に言い聞かせるように胸中そう繰り返し、京子はサッとワインの瓶をとった。
「じゃあ、そろそろ乾杯しましょう!みんな飲み物用意して」
「沢田を待ってもいいんじゃないか、京子」
「だめ、お料理冷めちゃうもん」
気遣う声音で了平が京子の顔を覗き込んだが、京子は努めて陽気に言って自分のグラスにワインを注いだ。赤い液体が透明なグラスにトポトポと流れこむ。それを見た獄寺が続き、ディーノやロンシャンも各々好きな飲み物をグラスに注ぎ始めた。ランボがワインを注ごうとしてイーピンに止められるのが視界の片隅に映った。時計の秒針が一周しようとしている。京子はグラスを握りしめ、割れるかと思うくらいに握りしめ(そうしないと落してしまいそうだった)、乾杯の音頭を取ろうと膝をついた。
点滅するライト。シャンデリア。ツリー。カーテン。ケーキ…
ああ、クリスマスだ、クリスマス。待ち望んだパーティーなのだ。ここに足りないものは何だろう?何もない。
京子はグラスを掲げた。なぜかクリスマスに相応しい高揚した声が出せる気がしなかった―――
「かんぱ、」
「ただいまぁ!」
声が響いて全員がバッとそちらを見た。京子にとって大部屋の入口は真後ろだったため、身をよじらねば見えなかったが、彼女が確かめる前にフウ太が声を上げた。
「ツナ兄!おかえり!」
「ただいまー」京子がついていた膝を戻して振り返ると、黒いコート姿のツナがマフラーを外しながら部屋を見渡して笑ったところだった。「すごいね、これ。みんながやってくれたの?…あ、ディーノさんにロンシャン、いらっしゃい」
「おう、御苦労さん」
「お邪魔してるよーん」
柔らかく笑うツナにディーノとロンシャンがグラスを掲げて返す。ツナは続けて山本、獄寺、雲雀、了平のほうに目をやった。山本はディーノたちと同じようにして手を振る代わりとし、獄寺はぺこりと頭をさげ、雲雀は少し首を傾けただけで、了平はおう、と手を挙げた。
「ツナさん遅刻ですよ!」
ハルが言いながら空けていた席を指示して座るよう急かした。「ごめんごめん」ツナはその席に座ると、隣になったイーピンに話しかける。「イーピンもいらっしゃい」
「はい!しばらくお世話になりますね」
「背ぇ伸びたね。ランボ、抜かされたんじゃないの?」
「いいや、それはまだですよ、たぶん…」
ハルがグラスにワインを注ぎ、それをフウ太がツナの前に置いた。京子は彼のほうを見ながらぼうっとしていたので、ハルが代わりに立ちあがって大きな声で言った。「それでは全員揃いましたので、始めます!メリークリスマス!かんぱーいっ!」
乾杯、と全員が唱和して、グラスを互いに当てあう音が鈴の音のように部屋を満たす。京子はぼうっとしながらワインに口をつけた。味が分からないまま一杯を飲み干した。
「なんで遅れたの、ツナ兄?」
周りが酒に酔って騒ぎはじめ、雲雀が早々に自室へ退散したあとで、フウ太が聞いた。既に最初の席順はごちゃごちゃになっており、大部屋の右半分にツナ、京子、ハル、フウ太、イーピン、左半分に残りの男性陣とビアンキがいる構図になっている。ランボはディーノと山本に酒を飲まされ酔ってしまったのを色々いじられて遊ばれていた。ツナはビールを飲みながらなんとなく答えにくそうに言った。
「いや、えっと、仕事がちょっと長引いちゃって」
「ならそう連絡入れてくださいよぉ、ツナさんのばかー」
段々と酔ってきたらしいハルが、語尾を伸ばす喋り方でツナに文句を言う。「京子ちゃんに心配かけてー」
「えっ」京子はいきなり自分の名前を出されてどきりとした。「本当?」といった調子でツナがこちらを見てくるので、彼女はブンブンと首を振る。「や、そんなことないよ」
「わたし…」
「ツナぁ!こっち来て飲めよ!このワインほんとに美味いぜ!」
ディーノが持参した高級ワインの瓶を振ってツナが呼ぶ。ツナは言いかけたことを遮られてしまった形の京子をちらりと見たが、京子が「なんでもない」と首を振ったので、グラスを持って立ち上がり、ディーノたちのほうへ向かった。京子はほうと息をつく。徐々に頭が落ち着いてきて、安堵感が彼女の中に湧いてきていた。やはりパーティーが自分の第一の目的ではなかったのである。無事な顔を見ることができればそれで良かったのだ。本当に良かった。
ハルはツナが自分から離れたので、ふと立ち上がり、雲雀さんの様子見てきます、と言って部屋を出て行った。イーピンはへろへろになっているランボを可笑しいやら心配やらで複雑になった表情で見守っている。酒に強い山本に飲み比べを吹っかけられて引くに引けなくなったビアンキは既に真っ赤になっているくせにまだ飲み続けている(彼女も弱くはないが相手が悪かったのだ)。京子は、今はオレンジジュースが入ったグラスをまたゆらゆらと揺らしてオレンジ色の液体に映るライトの色を眺めた。すると肩を叩かれた。
「京子」
見るとツナだった。
「なに?」
「ごめんね、遅刻」
「あ、ううん、本当に気にしてないから…」
首を振るとツナは少しの間何かを考え込んで、言う。こうして間近で見ると本当に大人になったと思ってしまう―――年齢的にはまだまだ若すぎるくらいなのに。いつもどこか緊張した、少し弱気な、彼はもうどこにもいないのだ。
「お詫びじゃないけど、あとから時間貰えるかな」
「どうして?」
「イルミネーション見に行こうよ」
だめ?
囁くように言うので、京子はしばらく瞬きをしたあと、にこりと微笑んだ。胸が熱くなってきた。何かの最後のピースがパチリとはまったような感覚がした。
「連れて行ってください」
声に出すと思いのほか甘い響きのような気がして照れくさい。ツナはほっとした表情で笑って、「じゃあ、あとで行こう」と言い、ディーノたちのほうへ戻っていく。京子はまたくすくすと笑って、オレンジジュースを飲み干すと、余っている缶チューハイを開けてグラスに注いだ。フウ太が驚いて言った。「京子姉、大丈夫?強くないんでしょ?」
「へいき」
飲んだピーチ味のその酒は舌の上でシュワシュワと溶けるような感覚がした。
PR
COMMENTS